キリムNo.: KJ13916
産地: カフカス、アゼルバイジャン、シルヴァン、アンティークキリム(ウール/ウール)
寸法: 221x170cm
価格: 528,000円
1995年、第一次イラク戦争の余波が残るトルコは、観光客やバイヤーが戻らず、問屋さん達はそれぞれの部族を代表する伝統&文化としてのキリムを紹介してくれるようになりました。これは3枚目のシルヴァンです。
問屋さんが広げたのは、見るからにしなやかで、100年以上前の植物が見せる表情が穏やかな、見馴れた縞柄の精緻な織物です。
織り込まれているのは伝統的な幾何学文様でなく、感覚で組み合わされたのであろう色糸が流れるような縞柄です。赤、藍、青、ベージュに染め分けられた四色と、天然の濃い茶と白を反復しています。色の組み合わせにはルールがなく、その日の気分と経験の様です。
頬をなぜる軽やかな草原の風、大空を舞う鳥たちの歌声、どこまでも広がる花々溢れる大草原、元気に飛び跳ねる羊達、感性に訴える様々な風景や感覚を色で表現していく織り手です。満ち足りた気持ちで丁寧に織りを進める織り手は、画面の中に、シックな色合わせ、明るい色合わせ、濃い色合わせ、濃い茶とコットンの組み合わせなど、あらゆる工夫をしています。キリム上部には、細かい刺繍のベルネ織りも見られます。子孫が少し修理糸を入れていますが、その技術はこの織手に匹敵するほどです。
なぜコーカサスにこれほど精緻な織物が伝わっているのかの問に、勉強熱心な問屋さんは「この地域はロシアの南部にありトルコとイランに国境を接している。多くの商人や旅人が往来しそれぞれの文化を残してきた。そんな地域の織り手達が、より良い物を目指したのは自然だろう?そして、沢山の部族集団が居住していることも、精緻な織物作りにつながっている。
カフカス地方は19世紀まで、部族間の絶え間ない戦争や破壊が続いており、それが人々や文化の滅亡へとつながってきた。この地域の織物が特上なのに数が少ない理由だよ。
19世紀前半、ロシア帝国がカフカスを支配するようになると、鉄道、道路や港の整備をし、輸出入が増加していった。これ以降、織物の黄金期となり、誰もが唸る程のカフカスの織物は、工芸品として高い人気を博すようになった。」と、生徒を前に満足げな顔でした。
19世紀末ごろから、ドイツで生まれた化学染料がここカフカスにも伝えられ、瞬く間に人気の染料として広まりました。簡潔な染色方法と目にした事のない色に、織り手達が狂喜したのは、カフカスも同じです。
織り手の成熟した感性と高い技術を必要とする植物染料が使われた精緻な織物は、これ以降、徐々に“絶滅”の道を歩んで行きました。
眼=邪視除け、 水の流れ=生命を支える水が、常に身近にありますようにとの願い